コンテンツへスキップ →

現実逃避としての特許

出願中のもう1件にも拒絶理由通知書が出ました。これまでの樹脂装飾体関連の出願はすべて同じ審査部門で審査されていたのですが、先週拒絶理由通知があった1件ははじめて別の審査部門での審査によるものでした。前の部署とは因縁がなくもなかったので、今後全部こちらになるのか、と喜んだのですが、今回は元の部署でした。

請求項1(最も範囲が広い、特許のかなめ)は新規性なし、請求項1に別の要件を追加して技術的範囲を狭くした従属項では、5の従属項で拒絶理由なしです。この5つのうち、2つは別の従属項にさらにぶら下がっているので、それ以外の3つの従属項をそれぞれ請求項1にすれば、元の請求項1よりは狭いけれどそこそこ広い権利範囲の3件の独立した特許を取得できる見込みです(少なくとも現時点では)。他にも補正の方向が考えられます。しばらく寝かせるとします。

こちらは派生的な技術で、先週出た分にくらべれば枝葉とはいえます。でも、これはこれで別の広い範囲で競合を抑えられるので、今後の事業展開の上ではたいへん有効です。事業を展開できればの話ですが。

先週出た分に対しては、審査官への連絡前の段階で、すでに応答書類を書き上げてしまいました。本職の技術開発より特許を優先させてしまうのは本末転倒です。でも、困ったことに、特許の方がやってて楽しいのです。理由の1つは、特許の方が目標が明確で、それを達成したかどうかの判断が容易だという点です。技術開発にも、目先の解決すべき技術的課題はありますけれど、ある課題を解決しても、また別の課題が出てきて、の繰り返しです。視界が一気に開けるような達成の局面はなかなか現れません。そうした連鎖の果てに製品としての魅力とか事業としての成功が控えていて、いきおい、この遠大な目標を常に意識せざるをえなくなります。この技術の可能性を信じて5年にわたり試行錯誤を続けているわけですが、目標を実現する方途も容易には思い描きにくく、実現可能なのかどうか見通しがつかず、実現すべきものが何かすら定かではありません。特許の目標も、最終的には事業としての成功なのですが、ずっと手前の段階として、特許査定という具体的な目標で区切ることができます。こちらの方が、達成の可能性や達成のための手段を想定しやすく、無理そうならさっさと諦められるし、行けそうならすいすい書類書けるし、五分五分なら挑戦意欲につなげられます。

何より、意見書や手続補正書の作成は、キーボード叩いて、組み立てたロジックに沿って文章書けばいいので、習慣化した動作の延長です。そのため技術的課題の解決や事業の構築といった難物よりも着手へのハードルが低く、やってる間は厳しい現実から逃れられて、なおかつ仕事を進めている気になれる、というのが大きいでしょう。説明や反論等の論旨は自分の発明の一部であって、自分の産物・自分の世界です。これを文章化することで自己実現欲が満たされるのです。フィクションを紡ぐ人が、そのことで自己実現欲を満たすのと、たぶん一緒。そして、このブログも同じことです。本体の方にこの欲求を向けないとさっぱり進まないのですが、なかなか思ったようにはいかないものです。手先の作業よりも文書作成を好んでするようでは、創意工夫魂の看板は返上すべきかも。特許の権利化でも創意工夫は発揮されますけれど。

でも、いちばん大きいのは、特許では、特許査定や特許審決という形での成功体験がいくつもある一方、事業ではろくに成功したことがなく、より広くはみずからがつくったものに対して満足いくような社会的評価を得られたためしがない、ということなのでしょう。うまくいくためには、まずうまくいかなければならない。難儀なものです。

カテゴリー: 技術 知財

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です