またまた、2回の審決に係る一連の出願について。
これらは、自分で明細書を書いたから特許されたのであり、弁理士に明細書作成を依頼していたら、少なくとも今回の原査定(審査官による拒絶査定)の拒絶理由を覆すことはできなかっただろうと思っています(別の引例だったらすんなり特許されたかもしれません)。その拒絶理由では、「立体模様を有する装飾体」という1990年出願の実用新案が主引例なのですが、この引例では、名称の通り「立体感を有すること」が眼目となっています。一方、2回の審判請求書等での主張の骨子はこうです。主引例と本願とでは、課題解決の方向が正反対であり、本願発明のもたらす効果は、装飾体を斜め方向から見た時に、溝が連続して見えることであたかも一枚の平面のようになることであるから、主引例に別の発明を組み合わせて本願発明とすることは、主引例の目的に反し、その効果を台なしにしてしまうので、主引例から本願を導き出すことはできない。
この主引例以前に審査段階で引例にされた多くの出願や、それ以外の出願でも、装飾体の「立体効果」を謳うものは多いのです。もし、今回の出願を弁理士に依頼していたら、同様に「立体的」であることが効果として盛り込まれただろうと思います。無難ですし、審査官にもわかりやすいアピール点になりますから。「立体感」は、このような発明で当然に予想される効果であり、そのような容易に考えられる効果を入れないことでその後不利に進展した場合のリスクを考慮すれば、代理人としては外す選択はとりにくいでしょう。
でも、私はへそ曲がりなので、「この発明はそこらの有象無象とはちがう、ありきたりの立体感を振りかざすような凡庸な真似はしない」と斜に構えて、あえて「立体感」とか「立体的」という文言は入れなかったのです。これが結果として功を奏したのですよ。もし「立体感」を売りにしていたら、上記の立論はできなかったからです。禁反言の原則というものがあって、ひとたび効果としてしまうと、あとからそれを取り消して正反対の主張をしても認めてもらえなかっただろうと思います。
斜に構えてたから救われたのです。斜めから見るのが勘所のこの発明ならではの逆転劇といえましょう。
…と思ったのですが、優秀な弁理士の先生が充分な時間をかければ、出願前の調査で上記の主引例を見つけて、私が思いつく程度の論旨は組み立て、周到に手を打ったかもしれません。専門家を見くびってはいけませんね。
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